リプロダクション外来
はじめに
近年の晩婚化あるいは不妊症という概念の一般化によって、子供を産みたいけど産むことができないカップル(不妊症)が急増しています。事実、2015年6月に不妊症の定義が”2年間以上を妊娠・出産を出来ない夫婦”の2年間が1年間に変更になりました。今後、ますます多くの不妊症カップルが増えることが予測されます。一方で、不妊治療は近年急速な発展を遂げ、ART(高度生殖医療技術:体外受精)により今までの治療では妊娠できないと考えられていたカップルが妊娠できるようになってきました。当院でも不妊症で悩んでいるカップルに対して、これまで多くの妊娠・出産に至るという実績があります。
特に、当院リプロダクション外来は産婦人科の総合施設に併設しているため、緊急時の対応・夜間の注射・入院を要する内視鏡手術・妊娠後の出産まで全てを当院で診ることができる数少ない施設です。
さらにリプロダクション外来では、生殖医療分野に精通した医療スタッフチームとして不妊専門の医師、不妊カウンセリング認定看護師、熟練した胚培養士が、皆さまとの信頼関係を第一に考え、お一人お一人に適した治療法(オーダーメイド)を効率的に行っていきたいと考えております。
当院で行う不妊症検査
下記の様なスケジュールで不妊原因を検索した後に、不妊治療を開始します。
検査時期が決まっている項目
① 月経期ホルモン検査 (月経2〜5日目)
② 子宮卵管造影検査 (月経終了直後)
③ 超音波卵胞測定・・・・排卵日検索のため
④ フーナーテスト(精子検査) (排卵日の翌朝)
⑤ 黄体期ホルモン検査 (黄体期中期、排卵5〜7日後)
検査時期を問わない項目
⑥ 血中クラミジアIgG,IgA抗体検査 (自費)
⑦ 子宮がん検査
⑧ 精液検査
⑨ 抗ミュラー管ホルモン(AMH) (自費)
当院で受けることができる不妊治療
- タイミング法
超音波で排卵日を予測して、タイミング指導を行います。 - 人工授精
人工授精とは精子を子宮内に直接注入し、妊娠へ導く方法です。簡単に考えると精子を入れるのみで、難しい治療ではありません。ただし、排卵や精子のある程度状態が必須となります。 - 体外受精
- 顕微授精
- (医学適応による)配偶子(卵子・精子)凍結
- 内視鏡手術
婦人科疾患における内視鏡手術は、従来の開腹手術に比して、侵襲が低く・傷も小さく綺麗なこと・術後の回復が早く早期に仕事復帰ができること・術後の腹腔内癒着が少ないことなどから、ニーズの多い手術となってきました。
当院では、卵巣嚢腫・子宮筋腫・腹腔内観察(原因不明不妊)・子宮外妊娠など治療するために腹腔鏡下手術を行います。当院では、腹腔鏡専門医により内視鏡下手術(子宮鏡下・腹腔鏡下手術)を積極的に施行しております。
診療内容
人工授精
人工授精とは精子を子宮内に直接注入し、妊娠へ導く方法です。簡単に考えると精子を入れるのみで、難しい治療ではありません。ただし、排卵や精子のある程度状態が必須となります。
(適応)
- タイミング指導でも妊娠しない方
- 精子所見が不良の方
- フーナーテストが不良の方
体外受精
不妊症の程度やご年齢によっては、思い切って体外受精を選択したほうが好結果につながるケースがよくあります。「最終手段」などという悲観的な考えは捨てて、医師と十分にご相談ください。私たちは、こうしたご相談には十分に時間をかけて対応いたします。
当院は、体外受精専門機関で日々改良され続けている最も高度な技術を提供いたします。
体外受精の実際
妊娠率(成功率)
体外受精での妊娠率は、日本全国で約23%となっております。症例ごとの分析ができませんので、詳細はわかりませんが、やはり、成功のキーポイントは奥様のご年齢が左右していると思います。当院での体外受精の全体での成功率は約33%ですが、36才以下に限ると約46%となっております。また、精子の状態や子宮の状態により成功率は大きく異なりますので、詳細は直接お話となります。体外受精の成功率は非常に重要ですが、多胎妊娠を避ける最大の努力で多少は妊娠率が下がってしまう事もあり得ますので、安易に成功率のみで検討なさる事のないようにアドバイスいたします。
流産率と出生児の安全性
体外受精で妊娠すると、妊娠経過の途中で約17%が流産してしまいます。 自然妊娠は10%くらいですから、少し高い数字です。当院では、幸い流産率が13%程度です。精子の凍結技術や卵子を作る誘発時のホルモン管理などが好影響しているのでしょうか?理由は解りませんが良いことなので。また、出生した胎児への影響は体外受精をしたことによって、染色体異常は明らかには増加しません。もし、異常があれば多くは流産してしまう訳です。心配でしたら、妊娠15週での羊水染色体検査をお勧めしますが、必須ではありません。当院で行えますが、羊水検査は双子や子宮筋腫の方はできません。また、子宮外妊娠は約2%に起こりえます。
採卵について
体外受精の準備には奥様への卵巣刺激が最重要課題となります。 当院では、この刺激法の工夫こそが、妊娠率向上のポイントと認識しております。各々メリットがありますので、個々に適した誘発法は事前に医師と十分にご相談ください。
排卵誘発法について(卵子をたくさん作る方法)
卵子をたくさん育て多く採卵することは、体外受精成功のコツですが、刺激が多すぎるとお腹が張ったような状態が続きます(卵巣過剰刺激症候群)。卵子が少なくても質で勝負するケースもあります。個々の体の状態によりベストな方法は異なりますので、最適な誘発法は、医師と十分にご相談ください。
排卵誘発における副作用
体外受精において排卵誘発は必須ですが、「多胎妊娠」または「卵巣過剰刺激症候群」という副作用が起こることがあります。多胎妊娠は子宮に戻す数を調整して防ぎます。通常は2~3個の移植を行いますが、胚の質(グレード)によっても妊娠率が大きく異なります。当院では、良好胚を2個以上戻したときの多胎妊 娠率は約15%程度で、三つ子になったケースはほとんどありません。卵巣過剰刺激症候群は排卵誘発剤使用によるもので、採卵時には当然予想できるものですから、ご安心ください。言い換えれば、当然にして起こりえることですから、十分に注意していただけば問題ありませんので、危険性の高い方は採卵後も定期的に診察をお受けください。その予防の為に、診察はマメに行いますが、注射の効果は個人差が大きく予想も出来ないことがあります。たくさん注射しても1 個か2個しか出来ない方から同じ量で20個以上できることもあります。一般的に20個以上採卵出来た場合には、卵巣過剰刺激症候群になりやすいです。
万一、卵巣過剰刺激症候群になり、腹痛がひどい場合には、当院で責任を持って管理いたしますので、医師の指示が有ればご入院ください。
自然周期採卵法
記で卵子があまり成長しない場合、または刺激が強すぎて卵巣過剰刺激症候群が危惧される場合、お仕事などで毎日のお注射が厳しい場合などは、内服薬と少量の注射で、なるべく自然に近い形で採卵の準備をします。場合によっては注射を数回併用しますが、スプレキュアは使いませんので金銭的・肉体的な負担は随分と軽減されます。若い方でも、少ない刺激なので、卵巣過剰刺激症候群予防のために行うこともあります。
しかし、卵子の数が多くは期待できない点(平均で2~7個くらい)、排卵日が不明なため超音波やホルモン測定が必要である点、採卵日前に排卵してしまう可能(約5%)など、デメリットもあります。この方法はLong法・Short法で刺激しても期待した程の卵子が採取できない方や数回の体外受精でも良好な卵子が得られない方に行う方法で、より自然に近い採卵法です。
いくら注射をしても卵子が3個以下の方は、注射を多くしないでこの方法で行っても良いかもしれません。また、若い方で卵子が出来すぎる可能性が高い方もこの方法でも可能です。反応がいい方は、この自然周期でも10個近い卵子が出来ます。当院は原則、休診がありませんので、排卵してしまい採卵中止になるケースはほとんどありません。
採卵法・麻酔法
当院では、採卵には通常ご入院の必要はございません。採卵は午前9時頃に行いますから、当日は30分前にお越しください。詳しい時間は、医師から説明があります。当日はもちろん、前日の就寝時以降(22時以降)は必ず禁飲食でお願いします。採卵は10分程度で終わりますが、麻酔から完全に覚めるまでお休みいただきます。個人差もありますが帰宅は14時~15時頃となります。
当院の採卵は、卵子の回収率が高く危険性が最も少ない腟式採卵法で行います。腟式採卵とは、通常の診察時に使用している腟式超音波を見ながら腟式に採卵する方法です。しかし、採卵は一種の手術のようなものですから、時には血管損傷や感染などが起こることもあります。相談できないくらい緊急などの場合、当院の責任において適切な処置を行うことをご了承ください。
当院は「痛みのない採卵!」を第一に考えていますので、通常は静脈麻酔を行い、数分間お眠りいただく方法で採卵します。麻酔は浅い麻酔で基本的には安全ですが、下記をお約束ください。
1. 必ず禁飲食で来院 2. アレルギーや喘息は必ずお申し出になること 3. 当日はご自分でお車を運転して来院しないこと 4. 当日は帰宅後も十分にお休みになること また、麻酔が合わないと、覚めた後に気分不快や軽度の頭痛が予想されますが、軽度ですので心配ありません。
胚培養について
受精卵の培養
採卵された卵子は、特殊な培養液・特別な環境下に数時間培養されます。その後、調整された精子と混ぜ合わせ(媒精)受精を待ちます。必要であれば、この媒精のかわりに顕微授精を行います。体外受精成功の最大のキーポイントはこの培養法にあります。
当院では過去の経験から高い確率で良好な質の受精卵が期待できます。受精が確認できるのは媒精翌日です。採卵翌日にお電話で受精の状態を確認してください。この受精の状態により、胚移植日や胚移植数などを相談いたします。最終的には、さらに翌日(採卵2日後)に分割の状態をみて、胚移植日や胚移植数などを決定いたします。
通常は採卵の2日目または3日目頃に胚移植いたしますが、ご希望があれば長期培養(5~6日間の胚盤胞培養)もお受けいたします。個人個人に適した質の高い体外受精を行いましょう。
精子調整法
精子が必要なのは採卵当日ですが、顕微授精の方は事前に精子をお預けください(凍結保存)。
精子を凍結して、解凍後にまだ元気な精子は十分に安全な精子である可能性が高いはずです。なるべく新しい物を…というよりは、少しでもいじめて、よりよい精子を生き残すという工夫が当院オリジナルの最新の方法です。そのためかは不明ですが、当院の体外受精の流産率は通常の報告の18%に比して、10~13%程度となっています。(※精子は採卵の当日にも必ずお持ちください!)ご主人は自宅採取もしくは当院で採精してください。準備にはおよそ5日間程度の禁欲をされ、前日は飲み過ぎに注意してください。ご主人が体調を整えるのも成功のポイントです。また、精子が少ない方で体外受精を選択された場合には念のため、数回の凍結保存をお勧めします。採取された精子は十分に観察し、最も適した方法により調整いたします。当院の精子処理は、特に高いレベルの技術により行われます。
胚移植について
胚移植(ET)
分割卵を子宮に戻すことを胚移植といいます。
通常は4~8細胞期(採卵2~3日目)にETを行いますが、実際には患者さんと相談し、その時の受精卵の数と質により決定いたします。多胎予防のため、2個程度の胚を移植するのが一般的です。胚移植は5分程度で終わり痛みもありません。当日は禁食で来院する必要もありません。移植後は約1時間の安静をとってから帰宅していただきます。翌日以降の特別な安静は妊娠率に影響ありませんので不要です。イメージとしては人工授精と同じです。当院では多くの場合、採卵3日目の8細胞期で行っていますが、ご希望に応じて長期体外培養による胚移植も行います。例えば、6日間の体外培養で胚盤胞まで分割させ胚移植する方法などもあります。患者さんがご希望される場合に施行いたしております。長期体外培養で着床率が向上するか否かは議論の別れるところですが、数回の体外受精を失敗している方は、一度トライする価値があるかもしれません。詳細は担当医とご相談ください。
尚、ETの当日は膀胱にお小水を溜めた状態で来院し、お待ちください。
当日は、お手洗いの我慢ができなければ受付けまでお申し出ください。
顕微授精法(ICSI)
本法は、体外受精-胚移植法のうち、男性因子により体外受精が選択された場合や、採取された卵子の状態が思わしくない場合、前回の体外受精で受精障害が確認された場合などに適応します。なるべく形がよく運動性も良好な精子を厳選し、顕微鏡下に細い針(直径0.01mm)でその精子を1匹だけ吸引し、直接卵子に注入し受精させる方法で、細胞質内精子注入法(ICSI :イクシー)と呼ばれています。現在、日本全国で出産している体外受精児の35%はこの顕微授精による妊娠ですが、本法の施行よりまだ10年少ししか経過しておらず、当院は本法の施行には十分に患者さんとお話し合いを行い施行いたします。本法にはかなりの熟練を要しますが当院では顕微授精に熟練したスタッフが行っていますのでご安心ください。実際にはあなたに顕微授精を施行するかは事前にご相談します。多くの卵子が採取できた場合には、半分は顕微授精を半分は自然受精による体外受精を行うといった方法もできます。
受精卵(余剰受精卵)の凍結保存法
一回の体外受精で複数個の受精卵が得られた場合に、余剰受精卵(余剰胚)を液体窒素(-196℃)にて凍結保存します。もしその周期に妊娠に至らなくても、次周期以降にこの凍結胚を解凍して胚移植を行えば、またご妊娠のチャンスが期待できます。非刺激周期に胚移植をすることで、着床環境が非常によく、高率な着床率を得ることもありえます。現在、当院は融解胚移植周期の妊娠率は50%以上です。この凍結受精卵を移植するには、今回の様に排卵誘発剤を大量に使用する必要はありませんので、肉体的にもかなり楽になります。1回の体外受精でご妊娠した場合では、数年後にこの凍結受精卵を用いて、兄弟なんて夢のようなことも可能です。一度凍結された受精卵は何年でも保存できますが、1年ごとの更新(意志表示)をしてください。